北アメリカ州の工業は、時代とともに大きく変化してきました。19世紀には五大湖周辺の鉄鋼業が発達し、20世紀初めには自動車工業が登場。しかし、現在では先端技術産業の中心が南部のサンベルトやシリコンバレーに移っています。この記事では、その流れをわかりやすく解説します。
北アメリカ州の工業の発展の流れ
19世紀後半|鉄鋼業の発達
19世紀後半、アメリカでは五大湖周辺を中心に工業が発展しました。
この地域には、石炭や鉄鉱石といった鉄鋼業に欠かせない資源が豊富にありました。
とくにピッツバーグ(アメリカ東部・ペンシルベニア州)は、鉄鋼業の中心地として発展します。
五大湖を利用した水上輸送や、全米に張りめぐらされた鉄道網によって、資源や製品を効率よく運ぶことができました。
この交通の発達が、アメリカの鉄鋼業を大きく支えることになります。
鉄や鋼は、建物・鉄道・橋・船など、あらゆる産業の基盤となる重要な材料でした。
そのため、この時期のアメリカは「鉄と石炭の時代」とも呼ばれます。
20世紀初め|デトロイトの自動車工業
20世紀に入ると、アメリカの工業は新しい段階へ進みます。
その中心となったのが、ミシガン州デトロイトの自動車工業です。
自動車メーカーのヘンリー・フォードは、1913年にベルトコンベヤを使った大量生産方式を導入しました。
この「フォード方式」により、短時間で多くの自動車を作ることが可能となり、価格も安くなります。
やがて、フォード社、ゼネラルモーターズ(GM)、クライスラーといった大企業が次々に成長。
デトロイトは「モーターシティ(自動車の街)」として世界に知られるようになりました。
自動車の普及は、アメリカの社会を大きく変えました。
道路やガソリンスタンド、郊外住宅地が整備され、人々の生活様式が一変したのです。
これにより、アメリカは「車社会」と呼ばれる国へと変化していきました。
工業の中心の移動|ラストベルトからサンベルトへ
五大湖周辺が衰退|ラストベルトの誕生
20世紀後半になると、かつて鉄鋼業や自動車工業で栄えた五大湖周辺の工業地域が、次第に衰退していきました。
その理由は、外国との競争や機械の自動化が進んだこと、そして賃金が高くなりすぎたことなどが挙げられます。
特に、日本やドイツなどの国々が、高品質で安価な鉄鋼や自動車を生産するようになったため、アメリカの工場は大きな打撃を受けました。
閉鎖された工場が増え、失業者も多くなります。
このように、かつての工業地帯がさびれた地域を、アメリカでは「ラストベルト(さびついた帯)」と呼ぶようになりました。
代表的な都市は、ピッツバーグ、デトロイト、クリーブランドなどです。
現在では、新しい産業を呼び戻そうとする再開発の動きも見られます。
南部・西部へ|サンベルトの台頭
一方で、工業の新しい中心として成長したのが、サンベルトと呼ばれる地域です。
「サン(Sun)」=太陽、「ベルト(Belt)」=帯という名前のとおり、北緯37度より南の温暖な地域に広がっています。
主な州は、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州などです。
この地域には、工業が発展するいくつかの理由がありました。
- 温暖な気候で働きやすい
- 土地が広く、物価や人件費が安い
- 石油・天然ガスなどの資源が豊富
- 大学や研究機関が多く、先端産業に向いている
その結果、航空機・通信・電子機器・バイオテクノロジーなどの先端技術産業が発展しました。
特にカリフォルニア州では、後述する「シリコンバレー」が登場し、アメリカ経済を支える新しい工業地帯となります。
先端技術産業の中心地|シリコンバレー
シリコンバレーとは?
シリコンバレー(Silicon Valley)は、アメリカ西海岸のサンフランシスコ近郊にある地域で、
世界でも有名な先端技術産業の中心地です。
名前の「シリコン」は、コンピューターの半導体に使われる素材のこと。
「バレー(谷)」は、サンタクララ・バレーという地名に由来します。
ここには、Google・Apple・Meta(旧Facebook)・Intelなど、世界を代表するIT企業が集まっています。
また、スタンフォード大学をはじめとした研究機関との連携も盛んで、
常に新しい技術やビジネスが生まれる場所として知られています。
アメリカの工業が変化した理由
アメリカの工業が、重工業から先端技術産業へと移り変わった背景には、いくつかの理由があります。
- グローバル化により、安価な製品を海外から輸入できるようになった
- 自動化や情報化が進み、知識を使う産業が中心になった
- 新しいエネルギー・環境技術が求められるようになった
つまり、アメリカは「ものを作る国」から、「知識と技術で新しい価値を生み出す国」へと変化したのです。
まとめ|北アメリカ州の工業は変化し続ける産業
19世紀には鉄鋼業、20世紀には自動車工業、そして現代では先端技術産業。
北アメリカ州の工業は、常に時代の流れとともに形を変えてきました。
かつてのラストベルトのように衰退した地域もありますが、
新しい技術と産業の力によって、今もアメリカは世界経済をリードし続けています。
🧠 北アメリカ州の工業 一問一答(中学生向け)
🏭 19世紀後半|鉄鋼業の発達
Q1. 19世紀後半、アメリカの鉄鋼業が発達したのはどの地域ですか?
→ 五大湖周辺
Q2. 鉄鋼業に必要な主な資源を2つ答えましょう。
→ 石炭・鉄鉱石
Q3. 鉄鋼業の中心地として発展した都市はどこですか?
→ ピッツバーグ
Q4. 五大湖周辺で鉄鋼業が発達した理由の1つに、どのような交通手段の発達がありますか?
→ 鉄道や船による輸送が発達していたから
🚗 20世紀初め|自動車工業の発展
Q5. 自動車工業が発達した都市はどこですか?
→ デトロイト
Q6. デトロイトに工場を持っていた有名な自動車会社を1つ答えましょう。
→ フォード社(または GM、クライスラー)
Q7. ヘンリー・フォードが導入した、大量生産の仕組みを何といいますか?
→ ベルトコンベヤ方式(フォード方式)
Q8. 自動車の普及によって、アメリカ社会はどのように変化しましたか?
→ 郊外が発展し、「車社会」になった
🔧 20世紀後半|ラストベルトとサンベルト
Q9. 五大湖周辺の工業地帯が衰退してできた地域を何と呼びますか?
→ ラストベルト
Q10. ラストベルトの主な都市を1つ答えましょう。
→ ピッツバーグ(またはデトロイト、クリーブランド)
Q11. アメリカ南部から西部に広がる、新しい工業地帯を何と呼びますか?
→ サンベルト
Q12. サンベルトが発展した理由を2つ答えましょう。
→ 温暖な気候・人件費が安い・資源が豊富(など)
💻 現代|先端技術産業とシリコンバレー
Q13. シリコンバレーはどの都市の近くにありますか?
→ サンフランシスコ
Q14. シリコンバレーでは、どのような産業が発達していますか?
→ 先端技術産業(IT・通信・半導体など)
Q15. シリコンバレーに本社を置く有名な企業を1つ答えましょう。
→ Google・Apple・Meta(旧Facebook)・Intel など
Q16. アメリカの工業が「重工業」から「先端技術産業」へ変わった理由を1つ答えましょう。
→ 技術の進歩や国際競争、知識を使う産業への転換
✅ まとめ問題
Q17. 19世紀→20世紀→現代のアメリカ工業の流れを順に並べましょう。
→ 鉄鋼業 → 自動車工業 → 先端技術産業
Q18. 「ラストベルト」「サンベルト」「シリコンバレー」を、地図上でそれぞれどのあたりにあるか説明できますか?
→ ラストベルト:五大湖周辺/サンベルト:南部・西部/シリコンバレー:カリフォルニア州西部
