世界の国々は「分業」によって経済的なつながりを強めてきました。かつては、発展途上国が一次産品を輸出し、先進国が工業製品を輸出する「垂直的分業」が主流でした。
しかし、工業化が進みグローバルサプライチェーンが広がった現代では、先進国と新興工業国が同じ種類の製品の製造過程を分担する「水平的分業」が拡大しています。
本記事では、垂直的分業の特徴と南北問題、発展途上国を支援する特恵関税、そして水平的分業が生まれた背景と具体例まで解説します。
水平的分業と垂直的分業|国どうしが得意な分野を分け合う仕組み
世界の国々は、それぞれが必要なものを得るために「分業」をしています。
これを 国際分業 といい、国ごとに得意な分野を担当し、貿易を通して商品をやり取りします。
国際分業には、主に次の2つの形があります。
- 垂直的分業:一次産品(農産物・鉱産資源)と工業製品を交換する
- 水平的分業:同じ種類の工業製品の生産工程を国ごとに分担する
かつては垂直的分業が主流でしたが、現在は水平的分業が広がっています。
なぜこの変化が起きたのか、その背景を見ていきましょう。
垂直的分業とは?|一次産品と工業製品を交換する構造

垂直的分業とは、
- 発展途上国(南の国) → 一次産品(コーヒー・バナナ・石油 など)
- 先進国(北の国) → 工業製品(自動車・衣類・機械 など)
という形で取引を行う分業の仕組みです。
これは、先進国が早く産業革命を迎えて工業化した一方、
途上国は植民地支配などの影響で農業中心の産業構造になったことが背景にあります。
一次産品は自然条件に左右されやすく、台風や干ばつで生産量が変動します。
そのため、輸出収入が安定しにくいという悩みがあります。
垂直的分業のデメリット|南北問題とは何か

垂直的分業の最大の問題点が 南北問題 です。
| 立場 | 得られる利益 |
|---|---|
| 北(先進国) | 高付加価値の工業製品を輸出し利益が大きい |
| 南(途上国) | 利益の少ない一次産品中心で収入が低く不安定 |
一次産品は値段が安く抑えられがちであり、その割に工業製品は高額になるため、
貿易の利益が公平になりにくい仕組みでした。
さらに、農産物に頼る経済は価格の上下に振り回され、
教育・インフラ・医療などに予算をまわすことが難しく、
貧困から抜け出しにくいという問題が生じました。
特恵関税とは?|途上国を支援するための関税制度

そこで、途上国の輸出を支援するためにつくられた仕組みが 特恵関税 です。
発展途上国から輸入する商品に対して、通常より低い関税を設定する制度
これにより、
- 途上国の商品が世界市場で売れやすくなる
- 貿易の利益が増え、経済成長につなげやすくなる
といった効果が期待されています。
しかし問題もあります。
特恵関税は「一次産品」の輸出を助ける仕組みであり、工業化を進める後押しとは限らない点です。
そのため、貧困改善には一定の効果があっても、
南北問題を根本的に解決するには途上国の産業多角化や工業化が必要とされています。
水平的分業とは?|工業製品の工程を世界で分ける仕組み
一方、現代主流になりつつあるのが 水平的分業 です。
こちらは、一次産品と工業製品の交換ではなく、工業製品の生産工程を国ごとに分ける分業です。
たとえばスマートフォンの場合、
- アメリカ → 設計・デザイン
- 韓国 → 高性能部品の開発
- 台湾 → CPUや基盤
- 中国 → 最終組み立て
- 日本 → 高機能なカメラ部品や素材
このように、1つの商品が完成するまでに世界各地を移動します。
これが、現代の グローバル・サプライチェーン と呼ばれる仕組みです。
水平的分業が広がった理由|グローバル化と輸送・通信技術の発達
水平的分業が発展した理由は次の通りです。
- コンテナ船の普及 → 大量輸送が安く・早く
- 通信技術が向上 → 遠隔で生産管理が可能
- 新興工業国の成長 → 中国・韓国・台湾が工業力を高めた
- 企業のコスト削減 → 賃金の安い国へ工場を移転
これにより、工業は“先進国の専売”ではなくなりました。
水平的分業の弱点|コロナと半導体不足で見えた現実
しかし、水平的分業にも弱点があります。
2020年以降のコロナ禍や半導体不足で、多くの国が次の問題を経験しました。
- 部品が止まると完成品が作れない
- 1つの国の工場が止まるだけで世界中に影響
- 特定の国に依存するリスクが大きい
実際、自動車メーカーは半導体不足で生産がストップしたことが話題になりました。
効率が高い分、止まると大きな影響が出るのが水平的分業の弱点と言えます。
垂直的分業と水平的分業の比較
| 項目 | 垂直的分業 | 水平的分業 |
|---|---|---|
| 主な国 | 先進国と途上国 | 先進国や新興工業国 |
| 取引内容 | 一次産品と工業製品 | 工業製品の工程分担 |
| メリット | わかりやすい仕組み | 効率化・コスト削減 |
| デメリット | 南北問題 | 供給が止まるリスク |
| 時代 | 20世紀中心 | 現代の主流 |
| キーワード | 特恵関税 | サプライチェーン |
表で整理すると、違いがより理解しやすくなります。
まとめ|協力しながら競争する時代へ
現在の国際分業は、
- 協力して生産する(水平的分業)
- 競争しながら品質や技術を高める
という特徴を持ちます。
そして垂直的分業の時代に生まれた南北問題は、
特恵関税や支援策だけでは完全な解決には至っていません。
今後は、
- 途上国の工業化支援
- 特定国依存リスクの分散
- SDGsの視点で公平な取引を実現する仕組み
が求められる時代になっています。
世界の分業は、ただの「交換」ではなく、協力と競争が同時に進む複雑な仕組みへ進化しているのです。
