表紙を刃牙の作者が描いている
本書を手にとった一番の理由は表紙に惹かれたからだ。サンデル教授やソフィーの世界がきっかけで哲学については少しは興味はあったが、本格的に読む気まではなかった。
このように哲学にはほとんど関心がない中、新聞の広告欄で本書の表紙を見た。表紙が刃牙なので、地下闘技場のように哲学者同士が議論を戦わせていくという内容を想定して、哲学とか関係なく純粋に読んでみたいと思った。
構成
哲学がどのように発展してきたのかを4つのテーマに分けて紹介している。
- 真理の真理
- 国家の真理
- 神様の真理
- 存在の真理
地下闘技場で哲学者が1対1で議論をするというわけではない。そこは想定していた内容と違ったが、哲学の説明がとてもわかりやすい。倫理の教科書で見たことのある有名な言葉も、その言葉が生まれた経緯を説明されると納得がいく。
高校生ときは「この言葉のどこがすごいんだ。なんで何百年も前の人の思想をわざわざ学校で学ぶんだ」と思っていたが、そうした思想が発展して今があると思うと「たしかに名言なのかも」と思えてくる。
真理とは何か?
真理とは、「絶対的に真だと言える理想の何か」のことだ。こう聞いても今一つピンと来ない。
本書には、真理の例が次のように紹介されている。
「文明から取り残された未開人を開放する」という言説は、一見するとすばらしいが、別の見方をすれば「奴隷民族として連れ去る」というように解釈することができる。
また、ある国ではでは雷は「神様が奥さんと喧嘩したときに起こる」とされるが、別の国では「悪魔を倒すときにハンマーから出る」とされている。
「正義の価値観」などもそうだ。敵討ちが正しい時代もあれば、そうでない時代もある。こうして見ると「これが絶対に正しいこと」と言える真理なんてなさそうだ。
しかし、この「絶対的に正しいなにか」、すなわち真理を追究する人たちがいた。そして、「真理はある」という主張Aが生まれ、それを倒す「いや、真理はない」という主張Bが登場する。さらに、「やっぱり真理はある」という主張Cが生まれ・・・。
このように、真理を追い求めながら、または否定しながら哲学が進化してきたことを、本書はわかりやすく解説している。
哲学者たちの人間味あふれるダメエピソードがおもしろい
歴史に名を残すような哲学者というと、私生活でも立派な人っだとイメージしがちだ。肖像画なんかも威厳があるように見える。
しかし、世の流れをつくるほどの偉大な哲学者たちでも思わず笑ってしまうダメなエピソードがある。そうすると、哲学者たちに親近感がわき著書も読んでみようと思えてくる。
個人的にとくにおもしろかったところ
本書を初めて読んだのは2012年だ。2021年の現在、改めて読み返すと「労働の価値観」についての説明がおもしろかった。
本書では「新しい価値観」を作り出していかないといけないと説く。2012年の時点でも納得感はあったが、「100年以内には価値観の変化は起きるだろうが10年以上は先の話だろうな」と、どこか他人事のようにも捉えていた。
9年たった今、コロナやAIの発達などで労働の価値観が変わりつつあると思う。僕はそうした環境の最前線にいるわけではないが、電子決済、レジの無人化、オンライン会議、テレワーク、FIREといった話を耳にすると、価値観の変化を感じずにはいられない。
本書をきっかけに原著にも挑戦
本書を読んだことがきっかけで読もうと思った本はニーチェ、キルケゴールの本だ。『ツァラトゥストラはこう言った』は手元にあるが挫折して『ニーチェ入門』を読んだ。これを読んだことでまた原著に挑むと気が出た。
デカルトの『方法序説』は、ニーチェやキルケゴールほどには関心はなかったが、読むべき古典として推奨されているし、本自体が薄いのでとりあえず読んでみた。1年以上前に1度読んだけだが端的に言うと「物事を細分化しろ」という内容だと思った。
他にも、『国富論』、『資本論』など挑戦したい原著はあるがいきなり読むのはきつい。これらにも1度挫折している。だから、解説本で基礎知識をつけてから再挑戦するつもりだ。